フォトリアルなビジュアルと増え続けるグラフィック要求に満ちた市場で、真の恐怖は見るものではなく、見えないものの中にこそ宿ると主張する、大胆なゲームが登場した。ホラーゲームといえば、暗闇から飛び出す怪物や目を背けたくなるようなグロテスクなイメージなど、「視覚」に依存するのが常識だった。しかし、その視覚を意図的に奪われたとしたら?
プレイヤーに「現実世界で目隠しをすること」を要求する、前代未聞のホラーゲーム『Cling to Blindness』。人気VTuberの領国つかさ氏がこの革新的なゲームを配信し、そのユニークな体験が新たな注目を集めている。音だけが頼りの世界で、プレイヤーは何を感じ、何を恐れるのか。その配信から見えてきた、本作の核心に迫る。
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1. 最大の驚き:プレイヤーは「本当に」目隠しをする
本作の最も衝撃的で、かつ基本的なルールは、ゲーム内の演出ではなく、プレイヤー自身が物理的に目隠しをすることだ。ゲーム開始直後、システムはプレイヤーに対し、現実世界でアイマスクなどを装着するよう指示する。このメカニクスは、プレイヤーとの間に特殊な契約を結び、他のゲームではめったに求められないレベルの信頼と無防備さを要求する。恐怖は最初のコードが実行される前に始まる――自らの視覚を意図的に放棄することから始まるのだ。
この前代未聞の要求に、配信中の領国つかさ氏も思わず本音を漏らした。画面もコメントも見えなくなる状況は、ゲームが始まる前からプレイヤーに本物の不安と緊張感を与える。
「ここから先は目隠しをする必要があります。不安すぎる」
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2. 「見えない」からこそ際立つ、立体的サウンドデザインの凄み
視覚を奪うという大胆な制約は、本作最大の強みであるサウンドデザインを際立たせるための布石だ。プレイヤーは完全に立体音響化された世界で、耳だけを頼りに探索を進めることになる。
配信では、その巧みな設計が見事に示された。目標である「お札(ofuda)」に付けられた風鈴の「チリンチリン」という澄んだ音と、プレイヤーを追う存在「足音さん(Ashiot-san)」の不気味な足音。プレイヤーはこれらの音を聞き分けることで、進むべき方向と迫りくる脅威の位置を把握する。さらに、壁のような障害物に近づくと「ゴーっ」という圧迫感のある音が聞こえ、視覚がなくとも空間の形状を認識できるのだ。領国つかさ氏が驚嘆したように、このサウンドナビゲーションは驚くほど直感的だ。
「これねすごいよこれめちゃくちゃ分かりやすいよ」
しかし、本作の真価は単なるナビゲーションの容易さにはとどまらない。音の情報だけで複雑な空間を渡り歩いた領国氏は、ある瞬間に核心を突く発見をする。それは、音がプレイヤーの頭の中に完全な「景色」を構築させる力だった。
「え すごくない ね すごくない 見た 聞いた これでも僕の頭の中でしかない景色だから」
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3. 音声だけで紡がれる、予想外に重厚な心理ドラマ
視覚情報が一切ないにもかかわらず、『Cling to Blindness』はプレイヤーの心に深く刻まれる物語を描き出す。ゲームの筋書きは、ある儀式に臨む主人公と、行方不明になった友人「晴れ」を巡る、心理的な否定と暗い真実をテーマにしたものだ。
特筆すべきは、この複雑な心理ドラマが、登場人物のセリフと環境音のみで巧みに表現されている点だ。この物語における抑制は、見事なデザイン選択と言える。ストーリーを焦点の合ったものに保つことで、ゲームはプレイヤーの認知的な余力を、聴覚によるナビゲーションという困難なタスクに集中させる。これにより、体験が過度に複雑になるのを防いでいるのだ。ゲームクリア後、領国つかさ氏もこの絶妙なバランスを称賛した。
「あれ以上ね 物語を複雑にすると目隠ししてるとわかんなくなっちゃうと思うんだよ。その塩梅もとっても良かった」
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4. 配信映えも抜群?「見せない」ことによる新しい視聴体験
このゲームは、実況配信というフォーマットとも非常に相性が良い。プレイヤーが本当に何も見えていないため、その驚きや恐怖といったリアクションはよりリアルで、視聴者にダイレクトに伝わる。
また、配信者が何も見えない一方で、視聴者はゲーム画面を見ることができるという特異な状況が生まれる。これにより、視聴者は配信者が気づいていない脅威にハラハラしたり、その純粋な反応を楽しんだりと、新しい形のサスペンスと一体感を共有できるのだ。領国つかさ氏自身も、この斬新なプレイスタイルが視聴者にとっても魅力的に映ると結論付けている。
「目隠しをしてゲームするっていうのが新しいから見てる側も面白いでしょうし お勧めできますね」
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Conclusion: The Future of Immersion Might Be in the Dark
『Cling to Blindness』は、単なるホラーゲームではない。それは、プレイヤーの「視覚を奪う」ことで、聴覚を通じた没入感の新たな可能性を切り拓いた、革新的な実験と言えるだろう。
本作は、最も強力なグラフィックカードは常に人間の想像力であることを証明し、視覚的な忠実さに取り憑かれたゲーム業界に挑戦的な問いを投げかけている。超高精細なグラフィックが進化の指標とされる現代において、最も深い没入体験は、あえて私たちの視覚を奪うことで生まれるのかもしれない。


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